アート・スピーゲルマン『マウスII』

  • 2008/10/29(水) 21:27:28

 マウスの後編。
 特に印象に残ったのは以下のふたつのシーン。

 まずひとつめ。
 アウシュヴィッツにて、生きた人間と死んだ人間がまとめて燃やされたことの描写。「燃える死体から出た脂肪をすくいあげ、もっとよく燃えるようにかけた」。

 ふたつめ。
 すべてを話し終えた父親が「リシュウ、もうお話はおわりだよ……」と口にしたところ。リシュウというのは、幼くして死んだ彼の息子。著者の兄にあたる。二人きりで居た際に父の口から出た呼びかけは、自分の名前ではなく亡き兄の名前だった。このとき筆者はどのような思いを抱いたのだろう。

『マウス』は、父の口から語られる話のほかに、筆者や父たちの日常も描かれる。いくつかの章に分かれているが、毎回まずは現在の日常から入り、「そろそろ例の話を聞かせておくれよ」と筆者が催促し、そして過去の場面へ移る、という構成になっている。やはり、このやり方しかありえなかったのだと思う。
 完全に父を主人公にして、その体験だけを描く、という方法もあるにはある。しかしこれでは駄目なのだ。現在の父が描かれなくてはならなかったのだ。
 すなわち、先述した、彼の「リシュウ」というつぶやき。
 そして、かつて迫害を受けた彼が現在黒人を差別しているという事実。
 父と子の葛藤、溝。
 これらもまた欠くべからざる要素なのだ。

 それにしても密度の濃い漫画だった。ほとんど無駄がない。描こうと思えばもう一冊くらいは描けたはずだし、読んでいる僕からしてみれば、他のエピソードや細部を知りたい気持ちがあった。とは言え、贅肉をそぎ落とした結果、こうなったのだろう。

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